【1000文字小説】テレビを買いに行く



よく晴れた6月の日曜日、悟郎は電気屋に行った。液晶テレビを買う為だった。昔に比べれば随分と安くなったはずだった。出来るだけ安く買おうと心に決め店内に入った。
パナソニック、シャープ、ソニー、東芝。各メーカーのテレビが並んでいて、どれも奇麗な映像を映し出している。

悟郎は近くにいた店員にどれがいいのか聞いてみた。大学生くらいにしか見えない店員はこれなんかいいですよと55インチのテレビを勧めてきた。ぐるぐる回って扇風機にもなると言う。店員がリモコンを操作すると、なるほどテレビがくるくると回って風がやってきた。強中弱と切り替えられた。涼しい事は涼しいが、その間テレビの映像を見る事が出来ない。面白かったが次を頼んだ。

「これはどうでしょう」と勧めてきたのはまた55インチのテレビだった。こんどは扇風機にはならないが、トランプになると言う。なるほどリモコンにトランプと書かれたスイッチが付いている。「どうぞ」と言われたので悟郎が押してみると、画面にハートのエースが映し出された。
他のカードはないのかと悟郎が聞くと、これはハートのエースの機種だから、全部のカードを揃えるには52台が必要だと言う。じゃあ全部揃えるといくらかと悟郎が聞くと、520万円になると答える。ジョーカーはおまけしますと言ってきたが、とてもじゃないがそんなには払えない。そもそもトランプなど100円ショップで105円で買える。

「ではこれなんかはいかがですか」と店員が勧めてきたのはまた55型のテレビ。「これでドミノ倒しが出来ますよ」と言う。2台3台倒すだけではつまらないから一気に1,000台倒すと壮観ですよ。壮観はいいが倒れたらテレビは壊れてしまうのでは。そういう疑問を悟郎がぶつけると店員はまた買えばいいと言う。また買うって、1,000台もか。そもそもテレビでドミノをやる意味がわからない。

「じゃあこれどうでしょう」店員が勧めてきたのはまたも55型のテレビだが、今度は凧になると言う。ちょっとここでは揚げられませんが、50メートルぐらいは揚がると得意げに説明する。オプションで石川五右衛門もありますと言う。凧揚げは楽しいかもしれないが、それではテレビが見られない。

「これで決めて下さい」最後に店員が勧めてきたのは55インチ、ソニーのブラビア。まあ、普通の至極真っ当なテレビだった。悟郎は何となく物足りない気がして、結局買わずに帰宅した。(了)


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