【1000文字小説】自分とよく似た子を見かける



朋樹は、町の中心部にある一番大きな本屋に入った。店内は日曜日ということもあり、大勢の人がいる。

マンガ雑誌のコーナーで立ち読みしていると、朋樹は自分と同じ服を着ている子を見つけた。

横顔を見た朋樹は、僕に似ているなと思った。

正面の顔も見てみようと朋樹は移動した。

似ているどころか、そっくりだった。

世界には自分とそっくりな人間が三人いると聞いたことがあるが、そのうちの一人が目の前に現れたかのようだった。

やや茶色がかった髪、丸い輪郭、目、鼻、口、体型までも、見れば見るほど似ていた。

だが、それらが同じでも、着ている服まで同じとはどういうことだろう。

いくらなんでもそっくりすぎる。

左目の下にあるほくろの位置までが同じ場所にあった。

こんな偶然があるだろうか。

鏡に映った自分を見ているようだった。目が合ったらどうしようと思いながらも目をやった。気づいていない様子だった。

その子が読んでいる本の表紙を見ると、朋樹が欲しかった本だった。同じような外見だと、興味や趣味もまた同じなのだろうか。

しばらくするとその少年は腕時計を見て、本を置いて店を出ていった。

朋樹もまた本屋を出て、そっくりな少年の後をつけていった。

他の町の子だろうか。今まで見かけたことはなかったし、狭い町のことだ。こんなに似ているのならば、朋樹にそっくりな子がいると、すぐ町の噂になるだろう。だが、そんな噂は一度も聞いたことがなかった。

最近引っ越してきたのだろうか。転校生で、明日から一緒のクラスになったら面白いな、と朋樹は考えた。友達も先生もみんな混乱するだろう。家に連れていって父と母と妹を驚かせるのも面白い。

少年は駅前の時計台の前で立ち止まった。町の人達の待ち合わせ場所として、よく利用されるところだった。今も何人もの人達が、やってくるであろう相手を待っている。

少年も誰かを待つのだろう。腕時計を見て、そして周囲を見渡した。

その目が朋樹とあった。朋樹はどきりとした。

が、少年には朋樹のことが、まるで見えていないかのようだった。

そのうちに、向かうから朋樹の父と母と妹がやってくるのが見えた。

あれ、三人揃ってどこへ行くのだろう? 
出かけるって言ってたっけかな。

三人とも朋樹には気づかない様子だった。笑顔で朋樹にそっくりな少年の方に歩み寄っていく。

「お父さん、お母さん、ミチル」朋樹は声を上げて三人を呼んだ。しかしその声は、誰にも聞こえないようだった。(了)



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