【1000文字小説】一枚だけ
八月も半分を過ぎたのに、健太の机には宿題がそのまま残っていた。 算数のプリント。読書感想文。自由研究。 健太は算数のプリントを一枚だけ終わらせた。二枚目に取りかかる前に、冷蔵庫へ麦茶を取りに行った。 戻ってくると、一枚目がない。 机の下にも、椅子の下にもない。 布団をめくると、そこにあった。 どうしてこんなところにあるのか、健太には分からなかった。 母に聞こうとして、やめた。 台所から包丁の音が聞こえていた。 夕方、健太は読書感想文の原稿用紙を持ってベランダへ出た。 向かいの家の屋根がオレンジ色になっていた。蝉がまだ鳴いている。 本は読んでいない。 それでも一行目に題名を書いた。 次に自分の名前を書いた。 名前を書いたところで、手が止まった。 消しゴムをかけると、紙に白い跡が残った。 夕飯のあと、母が言った。 「宿題、やった?」 健太は少し迷ってから、うなずいた。 母は健太の顔を見た。 「そう」 それだけ言って、台所へ戻った。 夜、布団に入る。 机の上には、まだ宿題が残っている。 健太は、明日やればいいと思った。 電気を消して目を閉じる。 しばらくすると、机のほうから紙をめくる音がした。 一枚。 また一枚。 健太は目を開けなかった。 朝になれば、少し減っているかもしれない。 そう思いながら、健太は眠った。 リンク