【1000文字小説】間に合うか



鈴木が目を覚ました時、目覚まし時計の針は午前八時十五分を指していた。

いつもは七時半に起きる。七時半にセットした目覚まし時計が鳴るのでその音に起こされるのだった。それが鳴らなかった。

ちぇ、今日はどうして鳴らなかった。鈴木は腹立たしい思いで目覚まし時計を睨みつけた。

いや、目覚まし時計は鳴ったのだった。鳴ったのだが鈴木の手が布団から伸びてけたたましく鳴るベルを止めた。だがそのことを鈴木は覚えていなかった。

急いで髭を剃り顔を洗いスーツに着替えた。急げば何とか間に合いそうだ。アパートを出て走ってバス停へ向かった。

外は青空が広がっていた。会社へ向かうのがバカらしくなるような青空だった。その青空の下を走った。

いつもより二本遅いバスだった。バスを降りようとして定期入れを忘れたことに気がついた。財布は別に持っているのでお金を払った。

地下鉄の駅に着く。

券売機に五百円玉を入れる。

急いでボタンを連打した。切符とおつりが出る。

急いで自動改札を抜ける。エスカレーターを使わずに階段を走り下りる。

ちょうど入ってきた地下鉄に乗り込んだ。

腕時計を見ると八時四十五分。始業時間の九時まで後十五分だった。会社のある駅まで地下鉄で二駅。駅からは歩けば十分程度だが、走れば五分で着くだろう。

地下鉄を降りたらダッシュしよう。

会社のある駅へ止まった。

腕時計は八時五十分。

鈴木は車両から飛び出ると、人混みの中を走り階段を駆け上がった。鈴木は高校時代に陸上部で短距離をやっていた。走るのには自信がある。

地上はやはり青空だった。会社へ向かうよりはどこか遠くへ行きたくなるような青空だった。だが鈴木は会社へ向かった。

会社に入って五年、これまで一度も遅刻をしたことはない。してたまるか。鈴木は走った。

道行く人をぶつからないように避けて、早く、早く。

会社のビルに着いた。

彼の会社は十三階だった。

二基あるエレベーターはどちらも来ていない。腕時計は八時五十八分。さてどうするか。

迷ったのはほんの一秒。

鈴木は階段をダッシュした。

二階、三階、息が切れる。

六階、七階、やはりエレベーターにすれば……。

十一階、十二階、あと一階だ。

走れ、走れ、走れ。

ようし十三階。

「はぁ、はぁ、お、お早うございます」と言いながら鈴木は会社のドアを開けた。

額からは汗が滴り落ちている。息が荒い。十三階ダッシュはきつかった。だが清々しい満足感。職場が注目。タイムカードは九時一分。(了)


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