【1000文字小説】ゴジラVS



鈴木家の朝、昨日と変わりなく母親は六時に起きた。起きるとすぐにつけるテレビからはニュースが映し出される。

「へぇ、ゴジラが…」

父親は七時に起こされ、五時半に配達された新聞を読む。

「へぇ、ゴジラが…」

一人娘の薫は七時十五分に目を覚まし、大きな欠伸をひとつする。

昨日と違うのは朝食のメニューとテレビと新聞のニュースだけだった。

「本日未明、日本海溝のゴジラ監視用潜水艦わだつみから入った連絡によりますと、眠っていたゴジラの動きが活発化しているという事です。自衛隊では警戒を強め、メカゴジラ三機を待機させ…」

八時になると薫は家を出た。高校はまだ夏休み中だったが、大学受験の為に予備校に通うのだった。自転車を漕ぎながら、薫はメカゴジラの事を考えた。

薫はメカゴジラが嫌いだった。あのゴジラを模した機体がまず嫌いだったし、製造費として何百億(何千億?)の税金が投入されているのも気に入らない。ゴジラはもう一匹しかいないのに、メカゴジラは五体もいるのも卑怯に思える。そしてなにより一番気に入らないのは、メカゴジラがゴジラよりも強いという事だった…。

昔ゴジラは何匹もいた。ある国の核実験によって誕生したゴジラは帰巣本能で日本へとやって来た。そのたびに日本は甚大な被害を受けた。それはまるで台風や地震のようでもあり、あるいは公害のようでもあった。何とか倒しても次のゴジラが現れた。

被害を食い止めようと、迎え撃つ自衛隊はメカゴジラを開発した。メカゴジラは期待に応え、日本へ来るゴジラ達を次々に退治した。そうしてゴジラ達の数はどんどん減り、最後の一匹は日本海溝へと逃げ込んだのだった。さすがのメカゴジラもそこまでは追撃出来ず、それからゴジラはじっと海の底に潜んだままだった。それが今から十八年前、薫が生まれた年だった。

数学の授業はよくわからない。薫の第一志望の大学は地元の国立だったが、今一つ自信がなかった。

薫はゴジラが地上に現れ暴れだして欲しいと願っている。口からは街を焼き尽くす白熱光を出し、道路に巨大な足跡を残し、シッポでビルを薙ぎ倒す。大地に轟く咆哮を上げながら、何もかも破壊してほしい。メカゴジラなんてぶち倒して。

薫が午後二時に帰宅すると、テレビではゴジラの動きが収まった事を伝えていた。今回の動きはゴジラの単なる寝返りだったのかもしれない。

薫は昨日同様午前一時過ぎに就眠した。昨日と違ってゴジラの出て来る夢を見た。(了)


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