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2017/09/04

息子と兄を間違える


認知症の母は私のことを母の兄だと思うことが多い。
私も50歳を過ぎていいオヤジになった。
年をとっている=息子ではないと思うのだろうか。
私を兄と間違える時の母の中では、息子は小さいままなのだろう。
母は母で、自分はもっと若いと思っているのだ。

目の前にいる、自分よりも年上の人間は誰か。
それで兄だと思うのか。
実際には母と母の兄が二人だけで暮らしたことはないし、母の兄は何十年も前に結婚して孫もいる。
だがそんな事実は関係ないのだ。

私を兄だと思っている時間は長いが、大抵はそのままにしている。
私のことを「あんちゃん」と呼んでくる。
あんたの嫁さんはどこに行った?と聞いてくることもある。
兄の嫁がいるのをわかっているのに、一緒に住んでいるのはおかしいとは思わない。

朝は私を息子だとわかっている日が多い。
週のうち6日はわかっている。
だが、息子だと思っていても一瞬で切り替わる。

「あれ、息子はどこ行った?」
「今までそこにいたのに…」

目の前にいるのが当の息子なのだが、その息子はどこかへ行ったようだ。
こういうときの母は若い頃の自分に戻っているのだ。
10代、20代、30代ぐらいか。
「今何歳?」って聞くと「80歳」と正解を述べることがあるが、多分それはたまたまで、大抵は「30だっけ」「50歳ぐらいか」「数えるのやめた」とか答える。最高齢は「300歳」だ。300歳だったらけっこう若く見える。自分が80歳なら息子もその分歳をとるのだが、そんな事実も関係ない。

息子はどこに行ったのだとなったとき、ちょっと前までは「俺が息子じゃないか」と言うと、最初はちょっと怪訝な顔をしながらも「ああ、そうだっけ」と思い出していた。
それがだんだんと無理になった。
それで「仕事に行ったよ」とか答えるようになった。
そう言っただけで納得する場合もある。
「ああ、そうなの」
「学校だよ」と言えば納得することもある。
「ああ、そうなの」

納得しない場合もある。
まだ小さいんだから仕事なんてしてないとなったり、挨拶もせずに学校へいくわけはないとなったりする。
納得させるのは無理だから話題を変える。無理に変えなくてもその内忘れる。

納得せず忘れないときの母は、息子を探しに家を出て行く。
息子を探し回るのだが、当の息子は目の前にいるので、見つかるはずはない。
1時間から1時間半程度歩き回ると、いい頃合いだ。
「帰ろうか」と言うと素直に応じて家に帰る。


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