【1000文字小説】一月に走る

 一月の空は透き通った青。北風が頬をくすぐるけど、寒さもなんだか気持ちいい。私は誰もいない球場の周りの道を、ひたすら走った。まだキャンプは始まっていないが、チームメイトも家でぬくぬくはしてないだろう。


男子のプロ野球、早く再開されないかな。今年も行われなさそうだし。帰ってきた人はコーチをしてくれるのはありがたいが、いったいいつになったら始まるんだろう。なんて考えながらも、私はペースを崩さず足を前に運ぶ。


去年は打率が三割に届かなくて、得点圏で打席に立つたび心臓がぐっと沈んだ。凡打を重ねたあの夜の悔しさは、まだ胸の片隅で小さく鳴っている。でも、思い出すだけで落ち込むのはもうやめ。だって今年こそは、絶対にレギュラーになりたいんだから。


息が白く上がるのを見ながら、「よし、今日も元気にいこう!」と自分に声をかける。足元に残る霜や凍った水たまりを避けながら、フォームや呼吸を意識してみる。走ることで体も温まるし、頭の中も整理できる。あの外野の守備ミスや凡打も、今なら少し笑える気がする。「去年の自分、ちょっと鈍すぎだよね」と、思わず笑いそうになる。


遠くに見える小さな神社の鳥居に目をやる。去年の春、ここを通りかかるたび「どうせ自分なんて」とへこんでいた私がいた。でも今は、誰もいない冬道を一人で走れるくらいには元気だ。寒さも孤独も、そんなに悪くない。むしろ、誰も見ていない時間にこそ、少しずつ強くなれる。


「おーい、がんばれー!」

突然、通り沿いの家から声がかかった。振り返ると、小学生くらいの女の子が手を振っている。思わず笑顔で手を振り返しながら、元気よく答える。

「応援ありがとー!」

足を止めるわけにはいかないけれど、声を交わすだけで少しだけ楽しくなる。冬の道も、ちょっと明るく感じた。


夕陽が街の瓦屋根をオレンジ色に染め、長い影の道を私は笑いながら走った。去年の自分を追い越す感覚が少しずつ体に染み込む。呼吸が苦しいときもあるけど、「男子のプロ野球、再開されたらどうする?」なんて考えて、気を紛らわせる。いずれ男子のリーグと女子のリーグで試合が出来たらどうだろうな。


冬の空気が肺を満たすたび、胸の奥にちょっとした熱が広がる。白い息をひとつ、風に溶かしながら、私は再びペースを上げた。キャンプが始まる頃には、去年の私を完全に追い越すつもりだ。誰よりも明るく、元気に、そしてちょっとおちゃめに──今年こそ、レギュラーになるんだから。


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