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【1000文字小説】彼女が大統領

 凍てつく真冬の夜、僕は駅前の繁華街を歩いていた。新年会帰りの人々で賑わう通りには、煌々と灯るハンバーガーショップ「ロンド」もあった。暖かい光の中から、見覚えのある顔が出てきた。元アルバイト仲間のリナだ。声をかけると、驚きの表情の後に、昔のような笑顔がすぐに戻った。 「久しぶり」 「新年会帰りなんだ。そっちは仕事帰り?」 「ええ、そう。懐かしくて、店に入ってみたの」 僕たちは近くの喫茶店に入り、コーヒーを注文した。窓の外には雪がちらつき始め、カップから立ち上る湯気が、胸の奥に温かさを運んでくる。目の前に広がる光景は、かつてバイト仲間と過ごした日々を、まるで呼び覚ますかのようだった。パティを焼く音、フライヤーの熱気、注文を叫ぶ声──あの小さな戦場で、僕たちは毎日を必死に駆け抜けていた。 「ねえ、ミオのこと覚えてる?」リナが突然口にした。もちろん覚えている。あの頃、僕の彼女にしたい娘No.1だったミオだ。休憩時間には世界旅行の本ばかり読んで、僕は一緒に世界を巡る妄想にふけっていた。 「ミオ、大統領になったわよ」 思わず吹き出しそうになった。でもリナの瞳は真剣で、嘘ではないことが伝わってくる。確かに、そんなネットニュースは見た記憶がある。遠い異国のニュース記事の向こうに、あのミオが存在している──信じがたくも、妙に納得できる事実だった。 バイト初日、慣れない制服を着たミオは、マニュアル通りにチーズを刻む僕たちの手元をちらりと見た後、無言でナイフを取り上げた。そして滑らかにチーズを薄く、均等に、完璧な厚さにスライスした。注文を間違えそうなお客には、すっと駆け寄り、「こちらがご希望ですよね」と笑顔で差し出す。その自然な気配りに、僕たちは心を奪われた。 「ロンド」には業務改善案を提出できる「アイデアボックス」という制度があった。ミオは初日からフル活用し、ポテトの塩加減や新メニューの提案、シフトの効率化、販促戦略まで次々にアイデアを出した。僕はその姿に、ただ圧倒されるばかりだった。 「変なハンバーガーも作ってたな。鯨バーガーとか」 「苦瓜バーガーは不味かったわ」 試作品が不味くても、ミオは「アフリカでは飢えて死ぬ子もいるのよ」と言って、すべて平らげる。小さな店での力強さが、今の大きな成果につながる予感さえあった。 コーヒーが冷めていくのも忘れ、僕たちは思い出話に没頭する。...