【1000文字小説】コンビニでの再会はバッドエンドへの第一歩
ザーッと降り出した雨に思わず駆け込んだのは、駅前のセブンイレブンだった。アスファルトを叩く土砂降りの音が、ガラス戸の向こうから容赦なく響いてくる。僕はびしょ濡れになるのを免れたことに安堵しながら店内を見渡すと、その視界の端に見覚えのある横顔が映り込んだ。 レジの列に並ぶ彼女は、長い髪をポニーテールにまとめスマホを眺めている。スラリとした首筋、昔と変わらない華奢な肩のライン。見間違えるはずがない。昔、あんなにも好きだった人。彼女は僕が入ってきたことには気づいていないようだ。 僕はビニール傘だけを手に取って、彼女から一番遠い雑誌コーナーから彼女を伺う。彼女が会計を済ませ、店を出ていくその背中を僕はじっと見送った。 会計を終えビニール傘を差して外に出る。弱まった雨足の中を歩き出そうとしたその時だった。 「パンッ!」 乾いたクラクションが背後で鳴り響く。振り返ると、店の前に停まった黒いN-boxから彼女が顔を出していた。視線が絡み合う。一瞬、時間が巻き戻ったかのような錯覚。 「久しぶり。雨、大丈夫?」 数年ぶりに聞く、あの頃と少しも変わらない温かさを秘めた彼女の声が、再び僕の心臓を締め付ける。ふと顔を見ると、昔と変わらない大きな瞳は濡れた睫毛に縁どられて一層輝いて見えた。 その瞬間、頭の中に響く声があった。誰の声かは分からない。けれど、確かに聞こえた。「こっちを選べよ。そっちはバッドエンドだ」と。こっちとそっちって、どっちがどっちだよと思いながら、まるで誰かが僕の選択肢を提示し、どちらかの道を進むように指示しているかのようだ。僕は自分の意思で動いているのではなく、誰かに操られているゲームの登場人物のようだ。この世はバーチャルリアリティのゲームで、僕らはその登場人物に過ぎないとはよく聞く話だが、今の僕はまさにそれを実感している。 ほんの一瞬の逡巡の後、僕は彼女のもとへと歩き出した。雨は、再び強く降り始める。差した傘を閉じ、N-boxの助手席に乗り込んだ。 「どこか行こうか」 彼女の言葉に、僕はただ頷いた。この選択がバッドエンドへと続く道なのだろうか。それでも僕は彼女の笑顔を選んでしまった。この再会は、決してハッピーエンドにはならない。晩秋のまだ色づききっていない街路樹を眺めながら、僕はそう思う。それは心の奥底に静かに沈んでいく予感めいたものだったが、それもまた何かに...