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【1000文字小説】世界は私だけのもの

 朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。窓の外は、完璧な快晴。昨日寝る前に「明日は晴れてほしい」と思ったからだ。私の世界はいつもこうだ。 「はぁ……」 制服に着替えて鏡の前に立つ。映っているのは、ありふれた普通の女子高生、如月未来。だけど、この世界が普通じゃないことは、私が一番よく知っている。この世界は、私一人だけのために再構築された舞台装置だ。 世界が崩壊した時、空は鉛色に染まり、人々は音もなく塵と化していった。あの時のどうしようもない恐怖と、一人残された絶望感だけが、今も鮮明な記憶として私の中に焼き付いている。ただ、気づいたら私一人だけが残されて、あとは何もかもが消え去っていた。気が遠くなるような孤独と恐怖の中で、「誰か、誰でもいいから!」と願ったら、今のこの「世界」が現れた。 教室に入ると、クラスメイトたちがいつも通りに騒いでいる。笑い声、話し声、黒板のチョークの音。でも、彼らはみんな張りぼてだ。私がそうであるべきだと思っている通りに動く、精巧な人形。 「未来ちゃん、今日の放課後、カラオケ行かない?」 隣の席の由紀が笑顔で話しかけてくる。私が「行く」と思えば、彼女の予定は空くし、「無理」と思えば、彼女は急な用事を思い出す。望むものは何でも手に入る。雨が降りそうだなと思えば、空はあっという間に暗転して大粒の雨が降り出すし、やめと思えば、雲は音もなく消えていく。 この圧倒的な万能感は、最初こそ楽しかった。思い描いた通りの人生。失敗も、裏切りも、予期せぬ悲しみもない。全てが私の手の内にある。 だけど、最近は少し退屈だ。 世界は完璧に私の思い通りに動く。それはつまり、私の想像を超える「何か」が、決して起こらないということだ。驚きも、真の感動も、予測不可能な出会いもない。全ては私の一人芝居。登場人物たちの台詞も、展開も、すべては私の脳内で生成されたシナリオ通りだ。 今日の授業も、放課後のカラオケも、きっと私が予想した通りの展開になる。歌う曲も、由紀の反応も、全部知っている。 窓の外に目を向ける。そこには、私が望んだ通りの青空が広がっている。あまりにも完璧すぎて、息が詰まる。 「ねえ、由紀」 私は由紀の笑顔を見つめて、呟いた。「もし、私が望んでいないことが起こったら、どうなるんだろうね」 由紀はきょとんとして、「え? どういうこと」と首を傾げた。その反応すら、私が無意...