【1000文字小説】あの頃を今に
手元にあるのは、手のひらサイズの小さなレトロゲーム機、「トライデント・ミニ」かつてアタリを飛び出したエンジニアたちが立ち上げたゲーム会社「トライデント」の、歴史を彩る名作(?)を5本収録した復刻版だ。当時を知る者としては見過ごせず、発売と同時に購入した。
電源を入れると、液晶画面に懐かしいタイトルの数々が表示される。トライデントはアメリカのメーカーらしく、収録タイトルは全て英語表記。「Road Racer」「Space Conflict」……当時、これらのゲームに日本語ローカライズなんてされておらず、英語の説明書を片手にプレイしたものだ。
この携帯ゲーム機、「ゲームボーイ」がライバルなのだろうが、ゲームギアはおろかリンクスにさえ勝てなかった。そんな不遇のハードの復刻版を前に胸を高鳴らせた。
まずは、看板タイトルの「Road Racer」当時としては画期的なリアルな車の描写に心を躍らせた。久々にプレイすると、操作性が非常に難しく、少しの段差で車が横転する。背景はカクカクしていて、BGMは単調な電子音の繰り返し。当時の興奮はどこへやら、現代のゲームと比べるとただただ操作しづらいだけの代物だ。
次は「Space Conflict」宇宙船を操作して戦うアクションゲームだが、動きはもっさり(まあ、多分当時も)しており、敵のAIも単純で、すぐに飽きる。当時は広大な宇宙に夢を見たが、今見れば物足りなく感じるのは仕方ない。
アクションパズルゲームの「Bubble Hero」も収録。ゴーストが針から逃げながらシャボン玉を運ぶというコンセプトだが、操作が繊細すぎてすぐにシャボン玉が割れる。当時もすぐに投げ出した。
スポーツゲーム代表として「World Hitter」は、野球ゲーム。選手の動きがぎこちなく、ボールの当たり判定も曖昧。現代の野球ゲームとは大きく異なる。
最後は、アドベンチャーRPGの「Mystic Quest」当時、画面に表示される英語の文章を理解するために、電子辞書や英和辞典を片手に悪戦苦闘した記憶が蘇る。「英語の壁」は大変だったがこれで少し英語が得意になった。
当時は確かに面白かった。もう一度「Road Racer」を起動する。やはりすぐに横転した。
「ああ、やっぱり難しいな」
笑いながら、小さなゲーム機をそっと机の上に置く。この体験こそが、この復刻版の真の価値なのかもしれない。あの頃の自分と、今の自分が、レトロゲームを通じて繋がったような、そんな不思議な感覚だった。(文字数:1040)