【1000文字小説】マンションを借りに行く



「マンション探してるんだけど」
「はい?まんじゅうですか?」
「違うよ。マンションだよ、マンション。まんじゅうもまあ食べたいけどな」
「薄皮まんじゅうなんかいかがですか」
「おお、いいねえ」
「置いてませんけどね」
「お前がまんじゅうって言い出したんだろ。マンションだよ」

「失礼しました。ダンジョンですね、ダンジョン」
「それも違うな。マンションだよ。マンション。なんで地下牢を借りなきゃならないんだよ」

「失礼しました。マンションですね」
「そうだよ。マンションだよ。ダンジョン本当に貸してんなら見せてみろよ」

「ご予算はどれくらいですか」
「10万円ぐらいまでだね」
「えんまんじゅう?聞いたことのないまんじゅうですね」
「違うよ、10万円だよ。またまんじゅうが出てきたな」

「失礼しました。10万円ぐらいまでですね。場所はどの辺をお考えですか」
「駅の近くがいいんだけどね」
「敵の近くですか。どなたと戦ってるんですか」
「ショッカーとね。俺って実は仮面ライダーだからさ。ってそんなわけあるか。敵じゃないよ。駅だよ、駅」

「失礼しました。こちらなんかいかがでしょう」
「部屋数とか聞かなくていいのかよ。ん?これで10万円?8LDK、風呂とトイレが二つもあるな」
「はい、お安くなってます」
「これいいな。よくこれで10万円ですむな」
「はい、この物件は1日10万円なので、1ヶ月だと300万円になります」
「300万?そんなに払えないよ。高級ホテルかよ。1日じゃないよ。月で10万円だよ」

「失礼しました。ひと月の家賃が10万円ですね。こちらはどうですか」
「いいね。ん?酸素ボンベ必須って何?」
「月ですから、必要です」
「月って、月?ムーン?」
「はい、そうですが…」
「NASAか、ここは。月にマンションがあんのかよ。そもそも駅の近くなのか、ここ」
「気に入りませんか」
「月からは通えないよ」

「では、こっちはどうですか」
「ほぉー、2LDKで風呂、トイレつきか」
「バスとトイレはちょっと離れてますがね」
「離れてるって、どれくらい?」
「月にあるんですよ。バスとトイレ」
「バス、トイレつきのつきって、月か。もう月から離れろよ」

「これでどうです」
「いいね。また月にあるなんて言わないよな」
「月じゃありません。こっちは火星です」
「火星にマンションあるのかよ。地球のマンションにしてくれよ」
「火星だけに、ちょっと貸せいって言うと思ったんですけど」
「言わねえよ」(了)


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