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2019/03/15

【1000文字小説】僕が仮面ライダーになった理由

「君だね。特技に『変身可能』と書いていたのは」役員の一人が僕の顔と履歴書を交互に見ながら聞いてきた。
「はい、そうです」僕ははきはきと爽やかな好青年を演じながらも自信を持って答えた。
 この就職難の時代に誰も知らないような地方の三流大学の学生の僕が、業界最大手A社の第五次選考まで残ったのは、友人達から見れば信じられない奇跡という事になる。だがそれは奇跡でも何でもない。僕は僕なりの努力というものをしているのだ。僕は他の学生達との違いを打ち出す為、ショッカーに頼んで改造手術を受け、仮面ライダーへと変身出来るようになったのだ。
「変身!」僕は大声で叫んで変身ポーズをとり仮面ライダーへと変身し自慢の勇姿を披露すると、役員連中からどよめきが起こった。
「改造された事により僕は朝から晩まで一切の休みなく働く事が可能になりました。過労死によって会社の責任が問われることなどないのです」ここが勝負だ。僕の未来が決まる。思いっきりアピールをする。十分な手応えを感じながら面接は進む。
「他の会社からも内定を貰ったらどうする」最後に、今まで黙っていた社長がバリトンで言った。
「私にはA社しかありません」僕は熱いやかんに触ってしまった手を引っ込めるように即答した。
「そうかね。……では期待してるぞ」
「はい!」もうすでに社員になったような気持ちで僕は返事をした。
 面接が終わり一礼をして部屋を出ようとした僕の背中に、人事部長が声をかけてきた。
「我が社に入る前に運転免許ぐらいは取ってくれよ」
「はい?」
「仮面ライダーが無免許じゃシャレにならんからなあ」役員連中がどっと笑うと、僕もつられて笑ってしまった。
 そう、僕は原付の免許さえ持っていなかったのだ。

(1998/09/18/勝ち抜き小説合戦応募 文字数:714)



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