【1000文字小説】アヤカいます!

 その店はクレープ屋だったが、半年であっけなく閉店した。商店街の角にある、間口の狭い十坪ほどの細長い店舗だ。次の月、同じ場所にタピオカ屋がオープンした。店の前には行列ができていた。店の中にはクレープ屋で働いてたバイトの女の子の姿があった。アヤカだ。瞳の色が少し茶色がかっているため、光が当たるとキラキラして見えた。だが表情は、タピオカをシェイクする手つきと同じくらい淡々としていた。タピオカ屋は一年で潰れた。アヤカはシャッターが降りた店をじっと見つめた。何らかの決意表明をしているようにも見える。


店は次に小さなサンドイッチ屋になった。ショーケースの奥で、アヤカは満面の笑みでサンドイッチを作っていた。彼女の隣には、もう一人、若い男の子がバイトとして働いている。店の外で並んで歩く二人の姿も時折見られた。アヤカの笑顔はクレープ屋にいた頃よりも、タピオカ屋にいた頃よりも更に明るく、生き生きとしていた。


店が開く少し前、彼女はいつも、古びた自転車に乗ってやってきた。スタンドを立て、前カゴに積んだ水筒とポーチを取り出す。細い腕で鍵をかけ、カゴをポンと叩いてから、店の入り口へ向かう。その一連の動作は、雨の日も風の日も変わらない。


サンドイッチ屋は一年半で無添加の調味料を専門に扱う店に変わった。清潔感のある白い内装に、シンプルなラベルの瓶が並ぶ。レジに立つアヤカは落ち着いたベージュのエプロンを身に着け、商品を丁寧に袋に詰めていた。彼女の表情はどこか大人びて見えた。客が「いつもここにいるわね」と話しかけると、彼女は穏やかに微笑んで「家が近いんです」と答えた。とは言っても自転車で二十分の距離だった。自分の勤めた店が次々と閉店したのは自分の力不足もその一因だと思い、リベンジする気持ちもあったのだった。


店が変わるたびに、アヤカも少しずつ変わっていく。前髪が短くなったり、メイクをしたり、笑顔も増えていく。その変化は、淡々と、だが確実に彼女の中に刻まれていく。店の看板は変わっても、店の看板娘はいつも変わらない。


商店街の店は、また変わっていくかもしれない。だが、アヤカがここにいる限り、この場所の物語は、いつまでも続いていくと思いたかった。彼女は今日も笑顔で元気な声で「いらっしゃいませ!」と声をかけている。「今度こそ続け」と願いも込めて。そして、閉店後はいつもと同じ古びた自転車に乗って、商店街の路地へと消えていく。


<1000文字小説目次>


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