【1000文字小説】増えていくもの
園芸店に入ると、入口の脇にポインセチアが並んでいた。赤い葉を見ると、クリスマスはまだ先なのにと思った。値札を見ると、去年より高い気がした。
私は奥の観葉植物の棚へ進んだ。
ポトス、パキラ、モンステラ。知っている名前を目で追いながら、私は棚の間を歩いた。家にもポトスがある。何年も前に買ったもので、伸びた蔓を切っては水に挿し、根が出ると別の鉢に植えてきた。今では、どの鉢が最初の株から増えたものなのか分からない。
新しい鉢を買おうと思ったのは、先週、居間の模様替えをしたからだった。ソファを壁際に寄せ、空いた場所に小さなテーブルを置いた。雑誌で見た部屋に少し似ていたが、二日もすると、何かが足りないような気がしてきた。
夫に話すと、好きなものを置けばいいと言った。テレビを見ながらだったので、こちらを向かなかった。私はそれ以上、話さなかった。
棚の下段に、丸い葉をつけた植物があった。葉は肉厚で、縁が少し赤みを帯びている。名札には「ペペロミア」と書かれていた。私はその名前を声に出さずに読んだ。覚えられそうな名前だったが、店を出るころには忘れているかもしれない。
鉢を持ち上げると、思ったより軽かった。葉の一枚に小さな傷があり、その周りだけ色が薄くなっていた。私は傷のある葉を裏返した。裏側には、表からは見えなかった細い筋が何本も走っていた。
隣の鉢は、葉の形も大きさもよく似ていた。こちらのほうが傷が少なく、全体に整っている。私は二つを交互に持ち上げたあと、最初の鉢を買い物かごに入れた。選んだ理由は、うまく説明できなかった。
レジで店員が、育て方の紙をつけますか、と尋ねてきた。私は頷いた。紙には、直射日光を避け、土が乾いてから水を与えること、とあった。水をやりすぎると根腐れする、とも書かれていた。いつもやっていることだった。
帰り道、私は箱を両手で抱えて歩いた。中で鉢が動かないよう、歩幅を小さくした。風は冷たくなっていた。歩道の隅に、乾いた葉が集まっていた。
新しい鉢を居間のテーブルに置き、少し離れて眺めた。そこに置くつもりだったのに、実際に置いてみると、テーブルの上が狭くなった気がした。鉢を端に寄せ、また中央に戻した。
窓辺のポトスは、長く伸びた蔓をカーテンに絡ませていた。外そうとすると、葉が一枚、私の手の甲に触れた。私は蔓をほどき、鉢の縁に沿わせた。以前より葉が小さくなった気がしたが、買ったころの大きさを思い出せなかった。
新しい鉢の土は、まだ湿っていた。育て方の紙をテーブルの引き出しにしまい、私は台所へ行った。
夕飯の支度をしながら、何度か居間のほうを見た。
夫が帰ってきたとき、鉢に気づくかどうか、考えていたわけではない。けれど、玄関の鍵が回る音がすると、私は手を止めた。
夫はいつものように靴を脱ぎ、鞄を置いた。居間を通り抜ける足音がして、やがて洗面所の水音が聞こえた。
私は包丁を持ち直した。
テーブルの上のペペロミアは、さっきと同じ場所にあった。丸い葉の一枚が、窓のほうへ傾いていた。
私はその葉を指先で起こしかけ、触れる前に手を引いた。