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2013/10/26

【1000文字小説】車を買いに行く



悟郎は中古車販売店を訪れた。運転免許を取得したので車を買おうと思い立ったのだ。寄って来た店員に声をかけた。

「車が欲しいんだけど」

「はい。これなんかどうでしょう」

店員が勧めてきたのは随分と小さめな車だった。

「燃費がいいですよ」

「リッターどれくらい?」

「ガソリンは使いません」

「え? 電気自動車?」

「いえいえ、電気も使いません」

「じゃあ、原子力」

「いえいえ。自力です」

「自力?」

「漕いでもらいます」

店員は車に乗り込んで実演してみせた。アクセルとブレーキの代わりのペダルを踏むと車がゆっくりと動き出した。が、悟郎は不満に思う。

「子供のおもちゃじゃないんだからさ。ちゃんとしたの見せてよ」

「これ、いいんですけどね、クリーンだし」うっすらと汗を流しながら店員が言う。

「長距離無理だろ、これ」



「これはおススメですよ」

「これ? へえー、中々いいじゃない」

「乗ってみますか?」

悟郎は乗り込んだ。が、助手席に奇妙なものを見つける。

「何で助手席にもハンドルがあるの?」

「ああ、これは二人で運転出来るんですよ」

「二人で運転って、自衛隊の教習車か。助手席の人間は運転しなくたっていいじゃない」

「助手席の人も、ただ座ってるだけでは退屈だろうから…」

「いいんだよ。ただ座ってるだけで。左と右に別々にハンドル切ったらどうなるんだよ」

「後部席にもついてるタイプもありますよ」

「いいよ。ハンドルは一つで。他の車見せてよ」



「これはどうでしょう」

「ああ、今度はまともじゃないの」

「乗ってみますか?」

「うん。…あれ、このハンドルの真ん中の大きなボタンは何?」

「あ、それは押さないで下さい」

「何で?」

「それは脱出ボタンです」

「脱出?」

「映画とかでよくあるじゃないですか。押すとボーンと天井が開いて席ごと飛び出すんです」

「え、何でそんなのついてんの。間違って押しちゃうかもしれないじゃない。怖いよ。いらないよ」

「万が一を考えてです。使うかもしれませんよ」

「使うって、どういう時使うんだよ」

「例えば、信号待ちの時とか」

「赤信号で止まってる時使ってどうすんだよ。青になっても進めないだろ」

「渋滞の時とか」

「使ってどうすんだよ」

「渋滞から脱出出来ますよ」

「脱出してどうすんだよ。その後困るだろ」



「他の車見せてよ。他の車」

「これはどうです」

「お、いいね、これ。気に入ったよ。これにする」

「ありがとうございます。えーと、お包みしますか」

「…包んでみろよ」(了)

仙台出身のサンドウィッチマン。面白いですよね〜。応援しています。


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