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2013/11/21

【1000文字小説】事務所を借りに行く



「事務所用の物件を探してるんだけど…」

「はい、お任せ下さい。どんな条件をお望みですか」

「うーんとねえ、あんまり広くなくて、大体10坪くらいでいいんだけど、駅の近くがいいね。1階で。それと駐車場が欲しいな。1台でいいから。家賃は10万円くらい」

「はい、調べてみますね。…これはどうです、東京ドーム3個分の広さです」

「おい、でかいな。10坪でいいんだよ」

「し、失礼しました。10坪、10坪…」

「しっかりしてくれよ、まったく」

「これはいかがですか。東京ドーム5個分の広さです」

「おい、増えてるよ。10坪でいいんだよ。そんなの家賃10万円じゃ絶対無理だろ」

「失礼しました。…これはどうでしょう。駅から車で5時間。東京ドーム10個分の広さです。30階建てビルの最上階です。周りには何にも無い静かなところです」

「もう全然条件と違うな」

「あ、すいません。駐車場がありませんでした」

「そんな場所なら駐車場ぐらいありそうだけどな」


「これはいいですよ。駅前10坪駐車場付き」

「いいね。家賃は?」

「家賃10万円ですが、管理費がちょっと…」

「管理費って、どれくらい」

「50万円になります」

「50万円って、随分高いな」

「タモリが管理してますから」

「タモリ? 何でタモリなんだよ。昼間管理出来ないだろ。それに高すぎるよ。普通の管理人でいいよ」


「そうですか…。これはどうでしょう。駅前10坪駐車場付き。家賃10万円」

「おお、いいね」

「1階ではないんですが…」

「ふうん、1階じゃないのか。で、何階?」

「地下80階です」

「地下80階? 何でそんな所にあるんだよ。セントラルドグマか」

「エレベーターが無くて階段です」

「体力つきそうだな」

「健康にいいですよ」

「借りないけどな」


「これはどうですか。駅前で、ちょうど10坪。1階です。駐車場もあります。家賃も条件ピッタリの10万円」

「ああ、いいね」

「じゃあご案内します」


「ここか」

「今鍵を開けますね。どうぞ」

「いいね。ん? なんだ、この床の人型のチョークの跡は…」

「あ、それは…、気にしないで下さい」

「なに足で消してんだよ。気になるなあ。あ、こっちにも人型のチョークの跡が…」

「な、何でもありません」

「気になるな」

「中々こんな物件はありませんよ」

「この壁、ここだけちょっと色が違うような…」

「そんな事はありませんよ」

「ほら、ここ、何か人の形のようだなあ」

「あんまり聞くと壁の跡が増えますよ…」

(了)

明日は小雪。車のタイヤもそろそろ交換の季節です。雪道の運転は気をつけましょう。


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