【1000文字小説】毎日がNG大賞
よく「美人は三日で飽きる」なんて言うが、俺の隣の席の氷見綾を見ていると、そんな俗説は真っ赤な嘘だと断言できる。長い黒髪、透き通るような白い肌、そして感情の読めないクールな表情。
そんな彼女は毎日、新しい「事件」を提供してくれる。隣の席になって二週間、俺だけが知る彼女の秘密。それは、彼女がとてつもない「ドジ」だということだ。
登校してきた綾は、なぜか隣のB組の教室に入っていく。そして、何事もなかったかのように出てきてA組に入ってきた。教科書を借りに行ったとかでは決してない。いつも隣の席から綾を観察している俺にはわかる。ただ単に教室を間違えただけに違いない。
一時間目の授業が始まる。彼女は教科書とノートを広げ、カバンからピンク色の可愛らしい弁当箱を出し机の上に置いた。
「堂々と早弁か」
俺が心の中でツッコミを入れていると、綾はその弁当箱をじっと見つめ、無表情のまま弁当箱を机の中にしまい、代わりに紺色の筆箱を机の上に置いた。
「入れ替えた!?」
俺はもう笑いを堪えきれず、下を向いた。彼女は至って真面目な、能面のような顔をしている。クールな表情とこの行動のギャップ。
四時間目は国語の授業。教師が「教科書32ページを開いて」と言うと、綾は素直にページを開く。しかし、開いた教科書を見て、俺はまたしても目を疑った。
彼女が開いているのは『数学Ⅰ』の教科書だった。しかも、真剣な顔でそのページを指でなぞっている。そこには二次関数か何かのグラフが描かれているはずだ。「おいおい」と声をかけようとした瞬間、彼女は国語の教科書に取り替えた。その間も表情は変わらない。ゆっくり丁寧な動作だったので俺以外に気づいた奴はいなかっただろう。
五時間目の授業終了のチャイムが鳴った直後、綾は帰りの支度を始めた。筆箱をしまい、カバンを肩にかけ、今にも立ち上がりそうな勢い。俺は思わず声をかけた。「もう一時間あるよ」
綾は無表情で時計を見て、止まった。表情は変わらないが、その場の空気が凍りついたような気がした。無言で、カバンから筆箱を取り出す。
六時間目の授業終了のチャイムが鳴り、今度こそ授業が終了だ。綾は立ち上がり「さよなら」と言いながら教室を出ていった。だがすぐに戻ってきてカバンを手に取り「さよなら」と言って教室を出ていった。
美人は三日で飽きるなんて嘘だ。彼女を見ていると毎日が新鮮で、何日たっても飽きないだろう。(文字数:991)