【1000文字小説】最適解

 統合暦7014年、人類史は完全に記録されていた。

暴力も例外ではない。


男――歴史工学者のミカミは、月面アーカイブで五千年以上に及ぶ紛争データを解析していた。戦争、内戦、粛清、警察権力、決闘、暗殺。形は変われど、暴力は一度も途切れていないように見えた。


彼の研究テーマは単純だった。


「問題解決における暴力の効率性」


倫理委員会が嫌う言葉だ。だが計算は嘘をつかない。資源不足、宗教対立、領土問題、人口調整。どの時代でも、暴力は最短時間で状態を収束させる傾向を示していた。交渉や制度設計は理想的だが、成功するまでに時間と不確定要素が多すぎる。


ミカミはスクリーンに表示されたグラフをじっと見つめた。

死者数と問題解決までの時間は、残酷なほど整った相関を描いていた――だが、彼はふと思った。データは正しい。しかし、人間の感情や偶然、文化の変化といったノイズをすべて排除した計算は、果たして現実の暴力を完全に表しているだろうか、と。


彼は無意識に、提出ボタンの上で指を止める癖があることを思い出した。


現在、人類は「完全非暴力社会」を名乗っている。だがそれは、軌道上からの資源遮断、出生制御アルゴリズム、社会信用スコアといった、非物理的な圧力によって成立していた。


形を変えただけだ、とミカミは思う。けれど同時に、これは暴力の完全否定ではなく、新たな形式の暴力の洗練とも言えるかもしれない、と心の奥で感じていた。


最終報告書は短くまとめられていた。


――暴力は五千年以上、問題解決の効率性の観点で最も安定的な手段であり続けた傾向がある。

――人類がそれを否定するたび、より洗練された手法が生み出された傾向がある。


提出ボタンを押した瞬間、室内の照明が変わった。

警告音は鳴らない。代わりに、静かな通信が入る。


「研究成果を確認した。君の社会信用は本日をもって凍結される」


ミカミは椅子にもたれ、わずかに笑った。

自分の仮説が、また一つ現実と接続された瞬間だった。

暴力は、今日も効率的だった――しかし、効率だけがすべてではないことも、彼の胸の奥にわずかに残った。


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