【1000文字小説】アウロラの干渉縞

 観測艦「アウロラ」のデッキは、無音に近い宇宙の闇に包まれていた。前方の星雲は淡く揺れ、青白い微光が螺旋状に小惑星へ伸びる。私は手すりに手を置き、端末の補助情報と現実の光景を照合する。

「シリウス、対象小惑星の表面スキャン開始」

AI補佐官の声は冷静だ。搭載されている量子位相干渉センサー「QPI-3000」は、デッキの振動や微小重力の影響を補正するため、ナノ振動減衰システムを内蔵している。光子パルスは1ナノ秒単位で検出され、干渉縞の変動は±0.02%の誤差で解析可能だ。

「磁気パルスに予期せぬ変動。自然現象では説明困難です」

端末のモニターには、光子パルスとして可視化された微弱な膨張・収縮が表示される。パルス強度は平均0.48ミリワット、周期は約1.2ミリ秒。干渉縞の直径は1.8センチで、観測艦の温度変動や微小振動による誤差は計算済みだ。

「誤差範囲を考慮すると、生命活動とは断定できません。情報エントロピー(平均1.37ビット/秒)とパルス周期の組み合わせは未知のパターンを示唆しますが、知性の存在を意味するわけではありません」

私は端末の統計解析ソフトを起動する。過去10分間のパルスデータを自己相関解析すると、変動の95%信頼区間は、ランダム生成と比較して偶然とは言えない規則性を示す。艦体の微振動や電磁干渉はすべて補正済みで、センサー仕様内の精度で記録されている。

「シリウス、ランダム生成との比較と自己組織化パターン抽出を実行」

「完了。自己組織化パターンの出現確率は0.003%で、外部介入なしの状態で観測されました」

私はデッキの窓越しに小惑星を眺める。直径約1.2kmの岩石は静かに自転し、光子パルスの揺らぎが干渉縞上に微細な整列を作る。信号は自己複製的パターンを示し、統計的に偶然の可能性は極めて低い。

「解析続行。干渉縞変動に基づく応答推定を行う」

AIの指示通り、私は端末で局所パルス刺激を入力。刺激強度は0.05ミリワット、周期0.6ミリ秒、持続時間50ナノ秒。艦体のナノ振動補正システムにより、干渉縞への入力は純粋な信号として観測可能だ。

数秒後、干渉縞の微弱変動が入力パルスと同期する可能性が統計的に確認された。0.2%の誤差範囲を含めても、ランダムでは説明不可能な自己組織化応答だ。

「応答確認。自己組織化パターンが入力に追従」

AIの淡々とした報告を聞きながら、私は観測者として冷静さを保つ。

その瞬間、通信モニターが点滅した。

「アトラス艦隊全観測班、干渉縞データをリアルタイムで受信中。解析協力可能」

私は手元の端末を同期させ、アトラス艦隊の解析チームと連携を開始する。三方向の干渉縞解析が交差し、自己組織化パターンの統計的有意性はさらに高まった。

「複数観測角度からの応答を統合。自己組織化の確率は0.0007%まで低下」

AIの声に、私はわずかに息をのむ。未知のパターンは確実に存在する。複数観測者と艦隊連携によって、信号は単独観測では決して到達できない精度で可視化されていた。

手すりを握りしめ、私はつぶやいた。

「現時点では断定できない。だが、このデータは未来に解明されるべき未知への最初の手がかりだ。私たちは、いま、歴史の最前線に立っている」


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