【1000文字小説】同窓会の再計算
同窓会は、旧市街の再開発区域に残された、かつて通っていた校舎で行われた。
佐伯ミドリは、入口で手首を差し出し、個体識別チップの照合を受けた。
名簿と一致する確率はおおむね0.998。誤差として扱われるには、十分に小さいとされている。
机や黒板の一部が残る教室を改装した会場には、かつての同級生たちがいた。
彼らの多くは、記憶補助用の外部ストレージを持ち、いくつかは身体の更新を終えていた。
ミドリは更新をしていない。
老化率は平均より高いが、診断では誤差範囲内と見なされている。
壁際で、彼女は高校時代の担任と再会した。
教師はすでに退職し、意識の一部を保存用サーバに移しているという。
「懐かしいですね」と教師は言った。
声の揺らぎは、記録よりも少なかった。
会場中央では、当時のクラス写真が三次元投影されていた。
笑顔の配置、視線の角度、肩の傾き。
アルゴリズムは、そこから関係性や将来の傾向を再評価していた。
結果は、十年前に出されたものとほとんど変わらなかった。
ミドリは、自分の位置を探した。
写真の中の彼女は、今よりわずかに背筋が伸びている。
未来に対する期待値が、まだ正の値を保っていた頃だ。
背後から、鼻を鳴らす短い癖のある声がした。
「佐伯?」
振り向くと、加村ユウタがいた。
彼は高校時代からそうだったように、無意識に指先で名札の角を折り曲げ続けている。
「結局、予測どおり。でも、外れたのは俺らの期待だけかもな」
ミドリはうなずいた。
だがその瞬間、胸の奥で、計算しきれない感覚を覚えた。
この場に集まった理由が、予測から導かれたものではない気がした。
「昔の私はもっと無邪気に笑っていたはずなのに、今の私は数字でしか感情を測れない」
彼女は心の中で自分に呟き、身体の重さや肩のこわばりを確かめる。
同じ笑顔でも、心の軽さや胸の膨らみ方が違うことを、数値では説明できない。
同窓会は、再計算のためではなく、計算し損ねた何かを確認するために開かれたのではないか。
そう思ったこと自体が、おそらく誤差の範囲内の感覚だった。