「冷蔵庫をお求めですか」
「ああ」
「これなんかどうですか」
「これか。デカイなあ」
「人間5人まで入りますよ」
「人間5人? 入れないよ。冷蔵庫に人間なんて」
「なんかのときに…」
「なんかのときってなんだよ。なんかのときって」
「ホラ、ケンカとかしちゃってウッカリ…」
「ウッカリってなんだよ。もっと小さいのでいいからさ」
「ではこれなどはどうでしょう」
「ほんと小さいな。手提げ金庫かと思ったよ」
「これでも人間の頭は入りますよ」
「人間の頭? いれないよ。人間の頭なんて」
「ホラ、ケンカとかしちゃってウッカリ…」
「ホラじゃないよ。ウッカリしないよ」
「これなんてどうですか。省エネタイプですよ」
「省エネタイプ?」
「電気量がなんとゼロ」
「ゼロ? すごいな。電気使わないの?」
「はい」
「どうやって冷やすんだよ」
「ここに氷を入れて、それで冷やします」
「昔の冷蔵庫みたいだな。で、その氷はどうやって準備するんだ」
「もう一台冷蔵庫を買ってもらって、それで作ります」
「もう一台ありゃあ、別にこれ使わなくてもいいじゃん」
「でもこれは電気代ゼロで…」
「これはいいから、他のやつにするよ」
「はぁ、ではこれなどはどうですか」
「随分薄いな」
「はい、ちょっとした隙間に置けますよ」
「置けるのはいいけど、隙間に入れたらドアを開けられないだろ」
「一回中身を入れたらずっと入れたままにしていて下さいね」
「下さいねじゃないよ。冷蔵庫なんて毎日使うもんだろ。他のにするよ」
「これはどうです」
「洗濯機みたいだな」
「はい、洗濯が出来ます。全自動で脱水、乾燥まで出来ますよ」
「洗濯機は持ってるからなあ。冷蔵品はどこに入れるんだ」
「もう一台別に冷蔵庫を買ってもらって…」
「これ、ただの洗濯機だろ」
「これなんかオススメですよ」
「テレビみないだな。もしかして」
「はい、テレビです」
「テレビって言っちゃってるな。もう冷蔵庫売る気ないのかよ」
「50インチで3万円です。安くないですか」
「安くなくてもいいからさ。俺が欲しいのは冷蔵庫なんだよ」
「おい、これなんていいじゃないか。大きさも手頃だしさ」
「これはオススメ出来ません」
「オススメ出来ないって、売り物じゃないの?」
「もう中に入ってますから」
「入ってるって、何がだよ」
「店長とケンカして、ついウッカリ…」(了)
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