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2017/04/27

【1000文字小説】タクシーに乗る



「どちらまで行きますか?」
「駅までやってくれ」
「ハイ、駅までですね。ええと、ここから駅っていうと、ニューヨーク駅までですね」
「ですねじゃねえよ。ニューヨーク駅なんてそもそもあんのかよ。いいか、仙台駅にやってくれ。これから新幹線に乗るんだよ」
「失礼しました。てっきりニューヨークへ行くものだと」
「ここからタクシーでニューヨークは行けねえだろ」
「いけねえ」

「最近はタクシー乗る人どう?増えてる?」
「いやあ、最近は犬や猫ばっかりで。人間のお客さんは久しぶりなんですよ」
「犬や猫って、タクシーに乗ったりしないだろ。そもそもお金持ってんのか」
「お金は持ってるんですけどね」
「持ってんのかよ。聞いたことないよ」
「行き先がわかんなくて」
「そりゃ言葉が喋れないからな」

「お、ここ、新しいラーメン屋できたのか」
「先週オープンしましたね」
「美味いのかねえ」
「行列出来てましたよ。私も並びましたから」
「おぉ、美味しかったかい?」
「食べませんでした。バイトで並んだだけですから」
「バイトで並んだだけって、ちゃんとタクシー運転してろよ」

「この間なんですけどね、真夜中に女性のお客さんを乗せたんですよ」
「おいおい、怪談かい?」
「そのお客さん、霊園まで行ってくれって」
「怖いの苦手だよ」
「途中でミラーみたらいなくなってたんです」
「本当か」
「霊園だけに、料金も0円でした」
「それ言いたかったのか」

「あれ、ここ工事中ですね」
「仕方ないな。迂回してよ」
「近道知ってますよ。そっち回りましょう」
「近道知ってんのかよ。工事中じゃなかったら通んなかったのかよ」
「えへ」

「そうだ、ラジオつけてよ」
「すいません、この車ラジオないんですよ。その代わり、電子レンジがついてます。ホラ」
「本当だ。助手席になんか置いてるなって思ってたけど、電子レンジか」
「お弁当温めますか」
「温めないよ。弁当なんて持ってないよ」
「この前ここに猫が入り込んじゃって」
「猫が電子レンジに? もしかして、温めたか。都市伝説みたいに」
「えへ」

「はい、着きました。ここでいいですか」
「おう、いくらになる?」
「あ、メーター倒すの忘れてました。じゃあ5万円でいいですよ」
「なんだよ、5万円でいいですよって。まけてくれてるみたいな言い方じゃないか。ここまでなら3,000円がいいとこだろ」
「では3,000円で」
「いい加減だな。あれ、万札しかないな。いいかい」
「はい、お釣りは温めますか」(了)



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