【1000文字小説】あちこちに幸運


絵那は何かに気がついた様子で、ベンチの脇に生えていたシロツメグサを一本むしりとった。それは鮮やかな緑の四つ葉だった。

 絵那には仲のいい友達が三人いた。一緒に買い物に行ったり家に行ったりする三人だった。あと三本見つけプレゼントにしようと考え、四つ葉を探し始めた。

「何やってんだ?」

声の方に目をやると、そこには自転車に乗ったクラスメイトの恭平がいた。毎日学校で顔を見ているのだが、学校以外の場所で出会うと初めて見る人のような気がした。

絵那は恭平が嫌いだった。絵那だけではなくクラス中の女子が嫌っていた。恭平が女子に対して悪口を言ったり意地悪をしたり殴ったり蹴ったりするからだった。

不潔でもあったからだ。髪はぼさぼさだし、爪の間には土や垢がつまって黒くなっている。

四つ葉のクローバーを見つけてから、すぐにあんな子に声をかけられるなんて…。

黙っていると何かされそうで怖かったので「四つ葉のクローバーを探しているの」と小さな声で答えた。

「友達にプレゼントするの」

「ふうん」

気のない返事をしながら恭平は思案顔になり「俺、一緒に探してやるよ」と言った。

絵那は嫌だと言いたかったが、断ったりするとぶたれそうで怖かったので「ありがと」と弱々しく言い、一緒に探す事になった。

「ほら、そこにあるぞ」

恭平は自信に満ちた声で言った。
絵那がその方向に目をやると、恭平に指さされたその四つ葉だけが、他の三つ葉とは違いぼんやりと光っているように感じ、すぐに見つける事ができた。

「ほら、そこ」

「あそこにもある」

絵那はその指示通りに動き、四つ葉を見つけてはせっせと取った。恭平は無造作に指さしているようでも、そこには必ず四つ葉があった。

「まあ、これぐらいでいいか」

 数えてみると十八本の収穫があった。

「これだけあればプレゼントできるな」と恭平は言い、自転車に乗って自分だけさっさと帰って行ってしまった。ぶたれたりしなかったし、悪口も言われなかった。

翌日、絵那は学校で恭平に声をかけようとした。が、昨日の恭平とは違う気がして思いとどまった。

絵那の視線に気づいた恭平は「なんだよ、じろじろ見てんじゃねーよ」と怒鳴った。

やはり違った。
似ているが昨日の恭平とは別人だった。顔がどこか違う。体型がどこか違う。声がどこか違う。雰囲気がどこか違う…。

絵那は、三つ葉と四つ葉の違いのように、同じ恭平でも昨日出会った恭平は葉っぱが一枚多かったような気がした。(了)



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