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2019/03/15

【1000文字小説】コンタクト

「こないださ、コンタクトと間違えてこんぺいとう目に入れちゃってさあ。
 え? うん、そうだよ。コンタクトとこんぺいとう。
 瞳がさ、百年前の、ってこういう言い方がもうすでに百年前なんだけどさ、少女マンガの主人公みたいにお星様になっちゃってさ、あせったよ、ほんと。
 なに? 名前が似てるだけで形は似てないって? 仕方ないだろ、間違えちゃったんだから。
 でもさ、名前が似てるって言えば、コンタクトと毛沢東って似てない?
 そうだろ、似てるよな。
 毛沢東をコンタクトと間違えちゃう奴がいるかもしれない。世界は広いんだし。
 そしたら世界はどう見えんだろうな。やっぱアカく見えんのかな?
 小さい頃さ、太陽をずっと見続けてさ、そのあと辺りを見渡すとさ、世界中が赤く見えたろ。あんな感じかな。
 なあ、一度入れてみたくない? モータクトー。
 え、モータクサン?
 なにそれ、シャレのつもり? つまんないよ。うん。冗談じゃなくって、ほんとにつまんない。
 遺体を目に入れたら、遺体だけにやっぱ痛い、なんちゃってな。受けを狙うんだったらこれくらいのレベルじゃないとだめだよ、うん。
 痛いって言えばさ、コンタクトって、ゴミがはいると痛いんだよな、これが。
 昔、相撲取りで板井っていたけどさ、そんな感じかな。
 よくわかんない?
 だろうな。俺だってよくわかんないよ。
 けどさ、コンタクトつけたまま目に五寸釘打ち込まれるとその何十倍も痛いっていうよな。
 え?
 コンタクトしてなくっても痛いって?
 そうかもしれないな。経験ないからよくわかんないけど。経験したくもないし。
 経験してたら死んじゃうよな、やっぱ。
 死んじゃうって言えばさ、コンタクトって寿命が短いんだよな、眼鏡に比べて。
 一番最初につけてたコンタクトなんて、二日しか持たなかったよ。
 短い? 
 だろ、短いだろ。
 二日だぜ、二日。たったの二日。
 使い捨てのコンタクトだってもっともつだろ?
 洗面所でコンタクト洗ってたら、そのまま流されちゃってさ、それでおわり。あっけないもんさ。
 ……あれ、なに、今の音。
 ありゃ、踏んづけたな。
 だからお前、動くなって言っただろ。

(1998/07/31/勝ち抜き小説合戦応募 文字数:892)



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