「あんたの入国は認められんな」
惑星タレスの衛星軌道上にある入国管理ステーションの唯一人の入国審査官は横柄な口調で言った。
「ど、どうしてです?」
俺は慌てた。今日中にタレスに入国出来なかったら一千万クレジットの取り引きがパーになるからだ。地球から亜空間航法で一週間もかかるタレスは、今や目の前にあるというのに!
「国王ランド様の決めたことだ、帰りな」
俺は食い下がったが、
「あんたは今33歳で体重は70キロしかない。入国基準を満たしてないんだよ」入国審査官はこれ以上纏わりつくなという顔で俺を睨み付けながら言った。
くそ、一体どういう事だ?
俺の後ろに並んでいたスモウレスラーらしい団体が俺を哀れむような目で見ていた。その中の一人が俺を気の毒に思ったのか声をかけてきた。
「5日前に出された御触を御存じないみたいですね」
「御触?」
「タレスの不況が長引いているのはご存知でしょう?」
「ええ」
「景気を回復する為に、国王のランドは他星からの入国者に景気を刺激してほしいと思って、新たな入国基準を作ったんです」
「はあ」
「10歳の者は100kg、20歳の者は200kgというように、入国する為には年齢に応じた体重が必要になったのですよ。体重が多ければそれだけ消費が増えるという考えなんですな」
「私は今33歳ですから‥‥」
「330kgが必要ですね」
「そ、そんな!」
奇行で知られた国王がまたやってくれたのだ。スモウレスラーかなと思っていた彼等は御触に従って事前に肉体改造を施してきた入国者達だったのだ。だが生憎俺の愛船エクリプスには肉体改造用機具は一切置いていなかった。
さあ、どうする、時間はない。俺は必死で考えた。
それで俺は惑星ネクステラ生まれということにしたんだ。いいアイディアだろう?
公転周期の関係でネクステラの1年は地球の30年に当たる。俺は現在1歳ということになった。
勿論、その為にネクステラの人口管理システムに不正アクセスしてIDを入手したのだが、これも一千万クレジットの為だ。
だが残念なことに結局俺は入国出来ず、取り引きはふいになったんだ。
あの横柄な入国審査官は、お前の顔は忘れていないぞ姑息な手段を使うなというようにぞんざいな口調でこう言ったのだ。
「帰りな、坊や」とね。
(1998/08/21/小説勝ち抜き小説合戦応募 文字数:943)