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2019/03/15

【1000文字小説】見ーつけた

 遅いなあ。僕は多少イライラしながら五本目のたばこに火をつけた。幼なじみのアイちゃんとの待ち合わせの喫茶店。今日は十六年ぶりに再会した僕らの三回目のデートだ。
 アイちゃんと再会したのはまったくの偶然で、営業マンの僕がたまたま飛び込みで入った会社の受付がアイちゃんだったのだ。子供の頃からほとんど変わっていないお互いの顔を見て、僕らは十六年ぶりに笑いあった。
 アイちゃんは僕が六歳の頃隣りに住んでいた女の子で、僕の初恋の相手だった。いつも一緒に遊んでいた。他の子なんて存在しないように、僕らはいつも二人だけで遊んでいた。
 そのアイちゃんに関して僕は不思議な思い出がある。ある日、アイちゃんは暗くなりかけた西の空を指差して言った。
「いちばんぼーし、みーつけた」
 アイちゃんの指差した西の空には、一番星がきらきらと輝いていた。次の日もアイちゃんはまた西の空を指差して言った。
「いちばんぼーし、みーつけた」
 きらきらと輝いている一番星。まるでアイちゃんのためにだけ輝いているみたいだった。そのまた次の日、僕はアイちゃんよりも先に一番星を見つけようと西の空に目を向けていた。アイちゃんもそれに気がついて、僕に負けないように空に目をやった。そして南の空を指差して言った。
「いちばんぼーし、みーつけた」
 南の空には一番星が輝いていた。次の日もその次の日も、またその次の日もアイちゃんが先に一番星を見つけた。僕も目を凝らして探すのだが、どうしてもアイちゃんに遅れをとってしまう。悔しいのだが、やはりアイちゃんの方が早く見つけるのだ。
「いちばんぼーし、みーつけた」
 アイちゃんは、東に西に北に南に、いたるところに一番星を見つけた。まるでアイちゃんが指差したところに一番星が出来上がるように。
 今考えるとアイちゃんは星を見つけていたのではなくて、本当に星を作り出していたんじゃないか? 自分が思ったところに星が出来上がる。そう考えないと辻褄が合わない。僕はそう思うのだ。
 五本目のたばこを吸い終わったとき、アイちゃんが入ってくるのが見えた。僕に気がついていない様子で、きょろきょろと店内を見渡している。僕が手を振ろうとしたとき、アイちゃんの方が先に手を振った。
「ユウちゃーん」
 アイちゃんは、昔と変わらない明るい声で僕の名を呼んだ。だけど、アイちゃんは僕の方を見ていなかった。
「ユウちゃん、見ーつけた」

(1998/09/11/勝ち抜き小説合戦応募 文字数:994)



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