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2013/09/26

【1000文字小説】仮面ライダーV2024



 サトミは自分の握りこぶしが入りそうなほどの欠伸をひとつした。二重の切れ長の目に涙がにじむ。置き時計の青いLEDの数字は午前1時12分を表示していた。

 この時期一体何人の受験生が自分と同じようにこうやって眠い目をこすりながら机にしがみつき、大学受験の終わった後はあまり役に立ちそうにもない勉強をしているのだろうとサトミは思った。眠りたいときにはとことん眠り、遊びたいときにはひたすら遊び、勉強は余った時間でしかやらない、そんな友人をサトミは2人持っているが、2人共自分より成績が良いのが気に食わない。受験勉強はいやだけれども、だからといって止めてしまう気にもなれなかった。自分が受験するのを止めても他の受験生が喜ぶだけだと母は言った。その通りだとサトミは思った。

 サトミは2階の勉強部屋から1階へと降りた。寝室では父と母が寝ている。父の鼾が聞こえた。キッチンでお湯を沸かし、熱湯をカップめんに注いだ。3分間きちんと時間を計って食べた。カップめんの容器からはスチレンダイマーとかスチレントリマーが溶け出しているんだろうかと思いながら食べた。環境ホルモンで生物がメス化しているというが、自分は元々女だからいいやと思いながら食べた。おいしかった。

 食べおわって勉強部屋へ戻り、再び勉強をはじめてからややあって、オートバイのエンジン音が聞こえてきた。その音を聞いてサトミは、タテイシさんちのお兄ちゃん、遅くまで頑張ってるなと思った。安眠を妨害する音に誰も文句は言わない。正義の味方のバイクだからだ。

 タテイシさんちのお兄ちゃんは改造人間である。現在では司法試験よりも難しい国家改造人間第1種試験に合格したタテイシマサルは国家公務員として無事改造され、2024番目の仮面ライダーになって日夜ショッカーと戦い続けているのだ。

 自分も仮面ライダーになりたいなとサトミは思った。仮面ライダーになって正義を守るのだ!!

 ……いけないいけない。夢と現実は違うんだから、とサトミはこぶしで頭をこつこつと軽く叩いた。そしてまた参考書と格闘をはじめたのだった。

 ベッドに入ってからサトミはもし結婚して子供ができたら、子供を仮面ライダーにしたいなあ、と考えた。国家改造人間第1種試験の合格者は男性が多いから、できるなら男の子を産みたいと思い、でも将来メス化が進んだら女の仮面ライダーも増えるんだろうなと思いながらサトミは眠った。(了)


1998年に行われていた『勝ち抜き小説合戦』に応募しようとした作品です。
『勝ち抜き小説合戦』が終了したのでお蔵入り。
ちょっと古い箇所もありますが、1000文字ちょうどなのでこのまま載せます。

〈1000文字小説・目次〉