悟郎はアパートを借りる為に近所の不動産屋を訪れた。
「アパートを借りたいんだけど…」
「はい、どんな物件をお探しですか」
「うんとねぇ、地下鉄の駅から五分以内で近所に大きなスーパーがあって、バストイレ付き、二部屋あるといいね」
「はい、じゃあその条件で検索してみますね」店員はパソコンを使って物件を検索する。「これなんかいいですよ。条件にピッタリです。山の中の一軒家でとても静かです」
「お前、俺の話まったく聞いてないな」
「家賃は500円です」
「随分安いな。借りないけどね」
「駐車場が20万円です」
「だから借りないけどな」
「これはどうです」
「今度は駅から5分だろうな」
「ていうか駅の中です」
「駅の中?」
「駅のホームの端っこにあります」
「おお、それならすぐ電車に乗れる。って、おい! ホームなんかに住めるかよ」
「今なら103号室が空いてます」
「103って、他にも部屋があるのか。で、借りてるやつがいる」
「ホームレスには絶対なりませんよ」
「うまいこと言ってるわけじゃないからな。違うやつはないのか」
「これなんかどうです」
「今度は大丈夫だろうな」
「駅から5分、バストイレ」
「部屋数は」
「バストイレ」
「いや、だから部屋数はって聞いてんだよ」
「バストイレだけです」
「バストイレだけ? 他の部屋は」
「他の部屋はありません」
「他の部屋はありませんって、バストイレだけでどうやって生活すんだよ」
「他にアパートを借りてもらえれば…」
「面倒くせえ。ちゃんとした物件はないのかよ」
「あ、ありました。ありました。これなんかいかがでしょう」
「ん、今度は大丈夫だろうな」
パソコンの画面にはなぜか龍角散のホームページが映し出されている。
「何これ?」
「5分ときたら龍角散」
「それ、5分じゃなくてゴホンな」
「ああ、いいのがありました、ありました。今度は気に入ってもらえると思います」
「龍角散はどうしたんだよ。…どれどれ、ふぅーん、バストイレ付き、食事まで付いている…ってこれ刑務所じゃないか」
「ピッタリだと思いますけど」
「おい、何で刑務所入んなきゃいけないんだよ。すぐ出て来れないだろ。ちゃんとしたの見せろよ」
「ええと、これはどうですか」
「なんだこれ、人が住んでる部屋じゃないか」
「私の部屋の写真です」
「なんでお前の部屋の写真なんか見せんだよ」
「駅から徒歩5分、二部屋、バストイレ付き。条件ピッタリの部屋には私が住んでます。一緒に住みませんか」(了)
昨日の日本シリーズ第1戦。楽天は巨人に0-2で惜敗。則本投手はいいピッチングでしたが、0点では勝てません。今日は負けなし田中投手でまずは1勝を期待。
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