【1000文字小説】冬の情景

 一月の終わり、空は薄い雲に覆われていた。灰色の層がゆっくりと広がり、街全体に静かな膜をかぶせている。昼に降った雪はすぐに溶け、歩道に白い粒をわずかに残しただけだった。アスファルトの黒さは濡れたように深く、ところどころに散る白がその暗さを強調している。


大通りでは、車が一定の速度で行き交っていた。エンジン音が重なり合い、街の表面を低く震わせる。歩く人の姿は少ない。厚いコートを着こんだ何人かが、急ぐでもなく、ゆっくりでもなく、それぞれの歩調で横断歩道を渡っていく。吐息は薄く白く、数秒だけ空中にとどまり、やがて冬の空気に吸い込まれた。


街路樹はすっかり葉を落とし、枝だけが細い線を重ねて立っている。枝先には、雪解けの水滴が小さく固まっていた。近づいて見ると、その粒は針のように細い光を返し、触れればすぐ崩れそうだった。遠くから眺めると、その光はぼんやりと揺れ、冬の午後の弱い光の中に溶けていった。


ビルのガラスには外気で薄い曇りが生じ、内側の灯りを柔らかくにじませている。赤い尾灯の列が道路に帯となって伸び、夕方の街をひとつの方向へ導くように流れていく。その赤は、冬の空気の中ではどこか静かで、熱を感じさせない光だった。


大通りを外れ、細い路地へ入る。ここには車の音がほとんど届かず、街灯だけが淡い円を地面に落としている。アスファルトは乾いているが、冬の硬さを含んでいた。歩くたび、足音が小さく響き、街灯の影が伸び縮みする。影は薄いのに輪郭は鋭く、その揺れが寒さの中でわずかな動きをつくっていた。


路地の奥に進むと、窓から漏れる暖色の光が壁を柔らかく照らしていた。どの部屋もカーテンがかかり、生活の気配は見えない。ただ光だけが外にこぼれ、冷えた空気の中で小さな色をつくっている。階段の金属製の手すりに触れると、冷たさが指先に鋭く伝わった。


ふと見上げると、雲の切れ間に月が浮かんでいた。輪郭ははっきりとして、雲の隙間から細い光を落としている。雲が流れるたび、月は見えたり隠れたりし、そのたびに地面の影がゆっくりと形を変えた。


遠くで踏切の音が短く鳴り、また静けさが戻る。街灯の光は変わらず地面に落ち、冷たい空気だけが夜を満たしていた。風は弱く、ほとんど動きを感じない。


その静かな空気の中で、冬の夜が持つ透明さだけが、確かな存在として浮かび上がっていた。



<1000文字小説目次>

人気の投稿

ソニーのステレオラジカセ・ソナホーク

ナショナルのステレオラジカセ・シーダRX-CD70

ソニーのビデオデッキ・EDV-9000

ソニーのステレオラジカセ・ジルバップ

昭和62年に発売されたソニーのステレオラジカセ