【1000文字小説】作られた幸運

 美穂、三十歳、独身。今日も平凡な一日になるはずだった。

しかし、コンビニで手に取った缶コーヒーが“当たり”だった瞬間、日常は少しずつ歪み始めた。店員の笑顔が妙に明るく、背後に視線を感じる。振り返っても誰もいない。ただ、自動ドアがゆっくり閉まる音が耳に残った。心臓がわずかに跳ねる。


会社に着くと、社長から突然の呼び出し。クビかと思いきや、新規事業のリーダーに任命され、給料もアップするという信じられない話だった。胸が高鳴る一方で、副リーダーのリナは微妙な表情でこちらを見ていた。まるで美穂の幸運を確認するかのように、鋭い目がこちらを貫く。嫉妬にも似た冷たい光が混ざっているのが、無意識のうちに伝わってきた。


昼休み、街で長年欲しかったブランドバッグを半額で見つけ、躊躇なく購入。幸運の連続に心が浮かれる美穂の背後で、再び視線を感じる。振り向くと、視線の主はリナだった。目が合うと彼女はわずかに笑みを浮かべ、スマホに視線を落とした。偶然ではない。リナに見られている。胸に不安と戦慄が芽生える。


夕方、宝くじ売り場でスクラッチを購入する。直感がそう告げたのだ。削ると、一等が当たっていた。喜びに声を上げそうになる自分を抑えつつ、周囲の視線が刺すように感じられた。嫉妬や羨望の混じる目。視線の奥に、リナが遠くからこちらを観察していることも分かる。彼女は笑っていたが、目は冷たく、計算された視線を投げかけているようだった。偶然の幸運ではない——すべて、仕組まれている感覚が胸に重くのしかかる。


夜、自室で当選金の使い道を考える。旅行、新しい家具、両親への贈り物……夢は膨らむ。しかし、今日一日の出来事を振り返ると、幸運はただの偶然ではない。誰かの意図によって、ここまで連鎖しているのではないかという考えが頭を離れない。胸にざわめきが残り、幸福感の裏に影が落ちる。


スマホが震えた。知らない番号の通知に目を落とすと、短いメッセージがあった。


《今日の幸運、よかったわね——明日も期待してて》


送信者はリナ。喜びと不安が混ざり合う。リナの意図は完全には分からないが、確かに自分の幸運を見守り、操作しているかもしれない。でも、そんなことが可能なのだろうか。美穂は目を閉じた。明日が来るのが楽しみなのか、それとも恐ろしいのか、自分でも判然としない。幸運の裏に潜むものは、まだ影の中にあった。


<1000文字小説目次>

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