【1000文字小説】上司の仕事
今日は、月末の売上報告書をまとめる仕事だった。
Excelに数字を打ち込み、グラフを作る。
同じ作業を繰り返すうちに、指先が痺れ、肩がじんわり重くなる。
息も少し浅くなり、背中の辺りが冷たくなるのを感じた。
「これ、先月比で伸び率が2%しかないね。どういうこと?」
上司はプリントを指差し、眉を吊り上げる。
心臓がぎゅっと締め付けられるようで、胸が苦しい。
「ええと…新規顧客の獲得が予定より少なかったようです」
「予定より少なかった、じゃなくて、君の仕事が遅いんだろう?」
言葉が胸に刺さり、肩がこわばる。
新規顧客リストは、上司が毎週作る表をもとに整理したものだ。
本当の責任は上司にあるのに、理不尽に叱責される。
昼前、資料をコピーしていると、上司が細かくチェックする。
「このページ、余白が少しずれてるな」
「…すみません、次から気をつけます」
「気をつけます、じゃなくて、なぜすぐ気づかないんだ?」
息が詰まる。手が少し震え、鉛のように重くなる。
元のテンプレートは上司が作ったものだ。
責められる筋合いはないのに、言い返すこともできない。
昼過ぎ、取引先への見積書を作る。
元データには、前回の契約額が誤って高く記載されていた。
僕は気づき、正しい数字に修正した。
慎重に計算を確認し、印刷まで終える。
「これ、どうしてこの金額になった?」
上司は指で文字をなぞりながら言う。
「ええと…元の資料には誤りがあったので、修正しました」
「元の資料のせいにするな。君の計算ミスじゃないか?」
胸の奥で悔しさが渦巻く。
心臓が早鐘のように打ち、手が硬直する。
正しい数字を出しても責められる。
本当の原因は上司のミスなのに、責任は僕に押し付けられる。
夕方、伝票整理をしていると、上司が書類を乱暴に机に置いた。
「処理が遅い!そんな簡単なことも時間かかるのか?」
「順序は上司がまとめた通りにやっています」
「順序のせいにするな!」
息が詰まり、肩が固まる。手に力が入りすぎてペンを握る指が痛い。
上司はほんの小さな紙の曲がりや文字のずれまで責め、確認不足や準備の悪さはすべて僕のせいだ。
窓の外に薄暗い夕暮れが広がる。
街灯の光がちらちら揺れる中、僕は机に突っ伏し、肩で浅く息をする。
手はまだ硬直したまま、背中の重さが胸まで覆いかぶさる。
できる人にはなれない。
本当の責任は上司にあるのに、僕は今日も、些細なことで責められっぱなしだ。
身体の奥まで重く沈む絶望が、夜の静けさの中で静かに広がっていく。