【1000文字小説】正月の余白
2018年1月3日、水曜日。午後6時。
窓の外は藍色に染まり、街のネオンが静かに瞬く。部屋の白い照明だけが、不自然なほど明るく浮かんでいた。ソファに沈み込み、手にしたスマートフォンを眺める。正月休みの思い出を楽しそうに投稿する友人たちの写真が、画面いっぱいに広がる。
「また明日から仕事か……」
吐き出すたびに、言葉が重く腹に沈んでいく。正月は、親戚と笑い合い、美味しいものを食べ、何もしない贅沢を味わった数日間だった。けれどその安らぎは、すぐに現実の重みに押し潰されそうになる。満員電車、無愛想な上司、終わらない会議資料。思い描くだけで、胸が締めつけられた。
冷蔵庫を開けると、正月に買った少し高級なビールと、残ったお雑煮が並んでいた。プルタブの音が、静かな部屋に響く。パソコンデスクの上には、年末に持ち帰った仕事用ノートパソコンが鎮座している。視線を逸らし、テレビをつけると、「正月病」の特集が流れていた。まさに自分のことだと思い、肩が少し沈む。
午後8時。明日の準備をしておこう。洋服を選び、カバンの中を整理する。一つ一つの動作が重く、体が言うことを聞かない。
「もう少し、あと少しだけ休めればいいのに……」
シャワーを浴び、パジャマに着替え、ベッドに潜り込む。枕元のスマートフォンは無言で待ち構え、アラーム音を想像するだけで頭が痛くなる。
目を閉じても、通勤ラッシュや山積みの仕事が次々に浮かび、寝付けない。布団の柔らかさ、ひんやりした空気、遠くで聞こえる車の音だけが、今の現実を支える。時間よ、このまま止まってくれ。永遠に続く日曜日であれば、心の重さも少しは和らぐのに。
結局、寝不足のまま朝を迎えるだろう。作り笑顔で「おめでとうございます」と挨拶し、憂鬱な一日を始める。それでも窓の外の月は変わらず輝き、静かに私を見守っている。