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2013/07/18

【1000文字小説】夢に現れる進路



M高校は無理だと担任の水野に言われた。

この成績ではM高はおろかC高でさえも危ういぞ。

けれど早紀はどうしてもM高校へ行きたかった。大好きな同級生の太田君がM高校へ行くからだった。

M高校に行きたいなあ。

そう思いながら毎晩眠りについた。

ある夜、夢の中に一人の女性が現れた。真っ黒な髪の毛が腰まで伸びている、どこかしら神々しさを感じさせる女性だった。

「あなたはM高校へ行けますよ」

いつもの早紀は夢など覚えていないのだが、目が覚めてもなぜか忘れずにその言葉をしっかりと覚えていた。

「あなたはM高校へ行けますよ」

夢の中のこの言葉を早紀は信じた。信じて、勉強した。

あたしはM高へ行けるのだ。

そして春が来た。早紀は無理だと言われたM高校に、見事合格を果たした。

大田君と同じM高に通う事になった早紀は、早速告白した。太田君はあっさりとOKした。最初はいい感じだったが、大田君は乱暴なところもあり段々嫌になった。

以前M高校に行けると告げた、あの髪の長い女性が夢に出て来た。

「太田君とは別れなさい」

早紀はまた目が覚めてもその言葉を覚えていた。

そして、早紀はその言葉に従って太田君とは別れた。

これでよかったのか? 

太田君はすぐに他の子とつきあい始めた。早紀とつきあっているときに二股をかけていたのだった。別れてよかったと早紀は思った。

夢の言葉を信じよう。あの女性はわたしを助けてくれる。

大学進学も女性の言葉に従った。就職先も然り。S市から東京に出て来た。

ある日つきあっていた男性からプロポーズされた。結婚してもいいと思っていたが即答はしなかった。夢の中の女性が何と言うか。もしかしたら反対するかもしれない。

「別れなさい」

夢に出て来た女性は言った。

夢に従った方がいいのか? 彼は明るくて一緒にいると楽しかった。会社員だが将来を嘱望されている。部下の面倒見もいいようだ。友達も多く、人気者だ。それでもあの女性の言うことだ。間違いはないのだろう。

その内に男性は転勤になり、早紀とは疎遠になった。

これでよかったのだろうか。とんでもない失敗をしたのではないか?

夢の女性などに頼らずに自分で決めればよかったか? 

だが後悔先に立たず。

そのうち、男性が結婚したという噂を聞いた。

そうか、結婚してしまったのか。

男性の結婚式に行った友達から写真を見せてもらった。結婚した相手は髪が腰まである美人だと言う話だった。

夢の中の女性と同じ顔をしていた。(了)



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