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2019/03/15

【1000文字小説】電話は鳴らない

「そうなの。あの子ったら、ケータイを一日中離さないのよ。それで一日中話をしてるの。ええ、そう、一日中……。
 あの子、最近は学校にも行ってないし。ええ、行ってないのよ。もう一ヶ月近くになるわ。このままじゃ、進級だって危なくなるんじゃないかしら。本当、そうなったら困るわ……。
 そう、部屋にこもりっぱなしなの。朝から晩までずっと閉じこもっているのよ。昼間から部屋にカーテンを閉めて。食事の時でさえ部屋から出てこないの。仕方ないから部屋に持っていってるんだけど。え? 甘いって? 仕方ないじゃない。部屋から出るっていったら、トイレに行く時くらいしかないのよ。その時だってケータイ持って、しゃべりながら用を足してるみたいなの……。
 静かになる時っていったら、眠ってる時だけ。でも、その睡眠時間だって短いみたいなの。ええ、あんまり眠ってないみたいだわ。一日三、四時間じゃないかしら。このままじゃ、きっと体を壊してしまうに違いないわ……。
 病院? ええ、勿論連れて行こうとしたわ。でもあの子ったら、すんごく抵抗して、暴れて、あたしにはとても無理だわ。連れて行くの。一度お医者さんの方に来てもらったんだけど、あの子、部屋から絶対出てこなくて。お医者さんもどうしようもなくて……。
 え、あの子、誰と話してるのかって? あら、言わなかったかしら。あの子のケータイ、もう契約止めたの。解約したのよ。今から二ヶ月も前に。そうよ、今はどこにも通じないのよ。なのにあの子ったら、一日中……」
というように、彼女は一日中、つながらない電話で話をしている……。

(1998/12/04/勝ち抜き小説合戦応募 文字数:665)



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