母はかなり前から曜日がわからなくなった。
失見当識、あるいは見当識障害と言うそうだ。
医学書には認知症の中核症状と出ている。
今が何時何分なのか、自分が今どこにいるのか、そんなことがわからなくなるのだ。
「今日何日だっけ」と何度も聞いてくる母。
「10月1日だよ」と私が言うとビックリする。
「え?もう10月なの」
いきなり10月になった訳ではないのだが、今が何月かはわからないのでビックリするのだろう。
何度も聞いてくるので何度もビックリしている。
時計の見方がわからない。
わかるときはわかるのだが、わからないときはわからない。
時計が8時30分でも「もう11時か」などと言う。
どこをどう見ればそうなるのかわからない。
時間がわかっても、その時間が何なのかがわからないことも多くなった。
どういうことかと言うと、今が昼の12時だとする。
時計を見る母。
キチンと12時だとわかったとしても、さあ晩御飯だなどと言うのだ。
昼ご飯と晩ご飯を言い間違えているだけなのか、12時は晩ご飯の時間だと思っているのかわからない。
ただ、ご飯だということだけはわかっているのだ。
トイレや風呂の場所がわからなくなる。
トイレに行こうとして風呂場に行く。
そっちは風呂だと言っても風呂場で用を足そうとする。
ドアに「トイレ」「風呂」とでっかい張り紙を貼ってみた。
だが張り紙を見ない。
見ているのかもしれないが、「トイレ」「風呂」という文字が何を意味するのかわからないのかも知れない。
なのでトイレのドアは閉めないことにした。
私のことをわからない。
息子だと正しくわかっているときの方が少なくなった。
たいていは自分の兄だと思っている。
息子だと思っているときでも、まだ学生だと思っていたりする。
それさえもなく、私のことが誰だかわからなくなるときもある。
「何となく見たことがあるんだけど…」
私を息子だと思わずに、私に向かって息子のことを話題にすることがある。
「何で人を殺したりしたんだ」などと、私は犯罪者になっている。
あの子はいい子だなんて褒められたことは一度もない。
自分のことがわからなくなることはまだないようだ。
誕生日がわからなくなって自分が何歳なのかはわからない。
それでもまだ自分は自分だ。
■■一行日記■■
大音量のラジオをかけた車が来たので見たら高齢者ドライバー。
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